グロテスク 桐野夏生

休みを利用して、久しぶりに長めの小説を読んだ。いわゆる東電OL殺人事件をもとにしているのだが、そういう週刊誌的な次元を超えた深い内容。いかにも小説的な前半から圧巻の後半へと、複数の登場人物をもちいてヒトの内的心理が立体的に描かれる。それも暗部を中心とした物語だ。


暗部と書いたけれど、核となっているのは自意識で、つまり全ての人が持っている感情。そして、他者との関係。読む人はみな、この小説の中に自分の影をみつけ対峙するはめになると思う。中身の暗さと相まって二重につらい小説なのだが、前半と終章が小説的様式を備えていること、全体としても物語りの展開のうまさがあることで「おもしろく」読み通せてしまうのもこの小説のすごさだ。

グロテスク 上 (文春文庫)グロテスク 下 (文春文庫)