読書

The Road Cormac McCarthy

コーマック・マッカーシーによる小説「ザ・ロード」を読んだ。核戦争が原因と思われる大変動のあと数年経った、末期的様相を呈した地球上に生きる父と子を描いた小説。と書くとありふれた設定のありふれた小説に思われるだろうが、これはひと味もふた味も違う。…

グロテスク 桐野夏生

休みを利用して、久しぶりに長めの小説を読んだ。いわゆる東電OL殺人事件をもとにしているのだが、そういう週刊誌的な次元を超えた深い内容。いかにも小説的な前半から圧巻の後半へと、複数の登場人物をもちいてヒトの内的心理が立体的に描かれる。それも暗…

プリオン説はほんとうか? 福岡伸一

前半はプルシナーが中心となって解明した、プリオン蛋白質がBSEなど一連の病気の要因であるとする研究の紹介。後半は、一転プルシナーのプリオン蛋白質単独原因説に疑問をはさみ、自説を展開するという本。 大変面白く書けているのだが、それ以上に疑問が多…

見てわかるDNAのしくみ(工藤 光子, 中村 桂子)

JT生命誌研究館は基礎研究の現場と一般の人をつなごうとすばらしい努力を重ねてきた。その成果の一つがこの三枚組DVDだ。今の日本はすぐに社会に還元される研究を求める。平たくいえば、金儲けになる研究だ。だがそれで本当に日本の科学は豊かになるのだろう…

眠れない一族 ダニエル・T・マックス

書店で手に取ったとき、副題の「食人の痕跡と殺人タンパクの謎」をみてプリオンの話だと分かった。でもタイトル、そして装丁に使われているロンギによるヴェネツィアの絵が結びつかなかった。 致死性家族性不眠症に苦しむ一族からはじまり、クールー病、スク…

系統樹思考の世界 三中信宏

これはなかなかの良書であった。いまや生物関連の論文や学会発表で現れないことはないといっていいほど広まった系統解析。いったいこれがどのような考え方に基づくのか、歴史的経緯も含めてきわめて平易に解説してある。専門的な知識がなくても十分理解でき…

日本人になった祖先たち 篠田謙一

ミトコンドリアDNAの配列解析から、人類がどのように世界へ拡散していったか考察する内容。といっても、表題の通り日本人のミトコンドリアDNAに関する話題がおおい。新しいデータも色々入っていて、人類がアフリカをでてどのようなルートをたどって世界中へ…

ホームラン術 鷲田康

ベーブ・ルースから松井まで、日米のホームラン打者のホームラン術を概観した書。個々の打者の技術の違いだけでなく、日米事情の違いに着目し、松井がメジャーに移って打撃法を改造せざるを得なくなったことをこれに重ね合わせる。ユーチューブなどで文章を…

スーパーコンピューターを20万円で創る 伊藤智義

大学院生が特殊計算に特化したスーパーコンピューターを自力で、しかも20万円で作ってしまった話。コンピューターを作った経験などなかった人がだ。もちろんすべて独力という訳ではなくて、教授を筆頭とする天文学の研究室のメンバー数名と外部の協力者の…

日本語の源流を求めて(大野晋)

随分前に読んだ大野晋の本のタイトルは何だったか、やはり同じ岩波新書だった気がする。その時は日本語とタミル語に見過ごせない共通性があるようだとは感じられたものの、単純に日本語の起源がタミル語とは納得できなかった記憶がある。 新しく出た本書の第…

「退化」の進化学 犬塚則久

副題には「人に残る進化の足跡」とある。人が進化する過程で失っていった、あるいは失いつつある器官に注目して、他の生物におけるその「祖先」器官と比較している。耳や心臓、歯など俎上にあげられた器官は様々で、その進化的起源を俯瞰していくのはとって…

はらぺこあおむし エリック・カール

近所の書店へ行くと一角でエリック・カールの特集をしていた。「はらぺこあおむし」の30周年記念だそうだ。僕は子供の頃この絵本が大好きだった。鮮やかな色使いや、あおむしの食事の様子を表現するための斬新な製本が大好きだった。久しぶりの出会いに、思…

フューチャリスト宣言 梅田望夫/茂木健一郎

話題の書を読了。対談と講演がベースなのでスルスルと読めた。読んでいて強く感じた事は、「おわりに」に書いてあった。 「この本は、細部をつついて批判するのがバカバカしいような明るい本となる」 全くその通りで、人間の可能性とインターネットの可能性…