The Road Cormac McCarthy

コーマック・マッカーシーによる小説「ザ・ロード」を読んだ。核戦争が原因と思われる大変動のあと数年経った、末期的様相を呈した地球上に生きる父と子を描いた小説。と書くとありふれた設定のありふれた小説に思われるだろうが、これはひと味もふた味も違う。


ここで描かれる地上の様子はいうまでもなく、世界の時計が止まった時刻が「1:17」であったり、唯一名前を持った登場人物がイーライだったり、背景には聖書が織り込まれているようだ。はっきりとは分からなくてもその宗教的な雰囲気は伝わってくる。マッカーシーの文体は余分な贅肉を徹底的に削り落としたもので、はりつめた静寂が全編を支配している。そして非常に叙情的である。


ほとんどの動植物が死滅した世界。人々が互いに互いを食って生き延びるしかない世界。そのなかで正しいあるいは美しい心を保って生きていけるのか?父と子は暗い空と灰に覆われた地上を、絶望的な状況の中、ひたすら死に向かって道を歩み続けている。でも、だからこそ父と子のあいだに通うもの、ほんのかすかにさす希望の光、そういったものが限りなくいとおしく美しく感じられた。そう、この小説はタルコフスキーを思い出させる。

ザ・ロード

ザ・ロード