水鳥の生殖器(2)

kagetsu2007-05-13

これまで調べられた鳥類の雄では、わずか3%しかファラス(phallus、ここでは通常内部に格納されており、性交時に外部に出てくる雄鳥の性器をさす)を持っていません。また、これまで知られていたファラスは、非常に単純な構造のものしか知られていませんでした。


前回紹介したように、水鳥(雁や鴨類)の雄の中には特異な構造のファラスを持つものがいる事を知ったこの研究者たちは、雌も通常の鳥とは異なった生殖器を持っているかもしれないと仮説を立てて行ったのが今回紹介する研究です。


論文から引用した図を載せていますが、ここには四つの異なる種から採ってきた生殖器の写真がでています。AからDまでそれぞれ左上に置かれているのが雌の生殖器で、右下が雄のファラス。白い矢印と矢印の間の部分が膣です。総排出腔の開口部は図でいうと下の方、Dのサンプルには毛がついているので分かりやすいと思います。


AとBの膣は単純な直線構造なのに対してCとDの種ではかなり複雑な構造をしてるのが一目瞭然。これを見ただけでも受精させるのは至難の業だと想像できます。注目して欲しいのが螺旋の巻き方。CとDを見ると膣とファラスでその巻きの方向が違っています(ファラスの部位は鍵カッコで示してある)。これでは交尾が成立しにくいだろうと容易に推察できます。


別の図で明確に示されているのですが、いくつかの種では螺旋構造以外にも、袋状の構造が見つかります。しかし、この袋構造は子宮から遠いところにあるので、精液溜めとしての機能は果たしていないだろう。むしろ膣にフィットしないファラスの精液をそこで留めてしまう機能を持っているのではないかというのが著者たちの推測です。


さらに著者たちはファラスの長さと膣構造の関連性を調べたところ、ファラスが長いほど袋構造や螺旋の数が多いという結果になりました。写真のAとBではファラスが短く、膣は単純な構造ですね。膣とファラスは起源を事にする器官なので、単純な共進化の説明とはならない。水上で交尾するので、水が入り込まないように螺旋構造が進化したという仮説も、逆向の螺旋構造の理由にはならない。また、鍵と鍵穴で同じ種の間だけでガッチリと交尾できるよう進化したとする仮説も、やはり逆向螺旋を説明できない。


そこで著者たちが推測するのは、膣がこのように複雑な形状をもつことで、雌の協力なしに生殖が成立しない様になっているのだろうと言うこと。無理やり交尾された時に妊娠する可能性を下げるような方向で、雌側から雄への選択圧が働いているのではないかと考察しています。


この考察はうーん、ホンマカイナという感じですが、観察事実は非常に面白いですね。水鳥類の進化系統樹と膣やファラスの形状の特徴は必ずしも一致したパターンをしめしません。生殖器の進化に関しては、なにか別の選択圧が働いているのは間違いなさそうです。


Coevolution of Male and Female Genital Morphology in Waterfowl
Patricia L. R. Brennan, Richard O. Prum, Kevin G. McCracken, Michael D. Sorenson, Robert E. Wilson, Tim R. Birkhead
PLoS ONE 2(5): e418