「退化」の進化学 犬塚則久

副題には「人に残る進化の足跡」とある。人が進化する過程で失っていった、あるいは失いつつある器官に注目して、他の生物におけるその「祖先」器官と比較している。耳や心臓、歯など俎上にあげられた器官は様々で、その進化的起源を俯瞰していくのはとっても面白い。同じ人の男女間の比較もある。


既に退化が「終了」した器官だけでなくて、現在進行中のものも幾つか例が出ている。例えば開いた手のひらを窪ませた時に手首に出る長掌筋の腱。「これがかける率は女性が高く、人種別では黄色人種三〜六%、黒人一〜一五%に比べて白人の方が十から四十%と多い。」そうだ。人によって変異の多いのは発展途上か退化の途中であると考えられる。この場合は後者というわけだ。


少々残念なのは、分子生物学的手法によって得られた近年の発生学の知見が活かされていない事。分子のレベルでも説明があればもっと面白かったのに。
「退化」の進化学―ヒトにのこる進化の足跡 (ブルーバックス)