スーパーコンピューターを20万円で創る 伊藤智義

大学院生が特殊計算に特化したスーパーコンピューターを自力で、しかも20万円で作ってしまった話。コンピューターを作った経験などなかった人がだ。もちろんすべて独力という訳ではなくて、教授を筆頭とする天文学の研究室のメンバー数名と外部の協力者の共同作業。その過程が臨場感あふれる筆致で、活き活きと描かれている。


スーパーコンピューターを作り上げてしまった件の院生は勿論すごいのだが、天文学の研究室がその研究目的のためにコンピューターを自作しようと考え、実行に移すところが一番すごいと思った。自分がやってる分子生物学の世界は、もう何でも買って済ませる世界なので余計にそう思う。実験装置を買ってすませるということは、逆に買えるもので研究の内容が規定されてしまうということで、これは恐ろしいことだなと自戒。


ところで、この本の著者が実は、スーパーコンピューターを作り上げた本人なのだ。この本は自分をも客体化して書いたドキュメンタリーという体裁になっているのだが、端々に著者の自負も垣間見えたりして、そこがまた自伝ともドキュメンタリーとも違った面白さを付加していた。

スーパーコンピューターを20万円で創る (集英社新書)

スーパーコンピューターを20万円で創る (集英社新書)