見てわかるDNAのしくみ(工藤 光子, 中村 桂子)

JT生命誌研究館は基礎研究の現場と一般の人をつなごうとすばらしい努力を重ねてきた。その成果の一つがこの三枚組DVDだ。今の日本はすぐに社会に還元される研究を求める。平たくいえば、金儲けになる研究だ。だがそれで本当に日本の科学は豊かになるのだろうか?真の意味での基礎研究を行っている研究者にとって、生命誌研究所がやっていることはとても重要だ。


このDVDを見た一般の方々は、こんなこと研究して何の役に立つの?なんて疑問は持たないだろう。細胞の中で繰り広げられる染色体DNAの複製や分配、遺伝子からのタンパク質合成の様子がこんなにダイナミックで、複雑で、精妙にできてるなんてことを目で見ることができてワクワクしてもらえるんじゃなかろうか。


専門家が見ても発見があるという、うたい文句は本当だ。この映像を作ったときにパブリッシュされていたデータは極力反映しているようだし、論文ではデフォルメされがちな分子の形やスケールなどにも注意を払ってある。その上で分子達をCGで動かして、動かすからこそ分かる制作者達の考察も入れてある。一般の方、学生、研究者、皆一見の価値はあると思う。


ただ、映像の強さゆえ一般の方はこれを見てああそうかと全て鵜呑みにする危険性をはらんでいる。それから、限界を感じるのは、いくら動かしたところで所詮モデルなのだということ。このDVDに出ていること、これらの現象を直接観察すべを分子生物学はまだ持っていないのだ。


不満を二つ書いておく。まず、本の大きさに合わせて小さなDVDを採用していること。通常の大きさのDVD一枚におさめてほしかった。だいたい、スロットローディングのMacでは再生できないではないか。それから、メニューにおいて全てを再生するボタンを押しても全ては再生されない。一回目に見たときは気づかなかった。あ、もう一つ。ダイジェストとか制作裏話とか、そんなもの入らないから文章は文章でもっとキチンと解説や参考文献を書くべきだ。映像で出ていることをもっと詳しく知りたい人は路頭に迷うだろう。


DVD&図解 見てわかるDNAのしくみ (ブルーバックス)

DVD&図解 見てわかるDNAのしくみ (ブルーバックス)