プリオン説はほんとうか? 福岡伸一

前半はプルシナーが中心となって解明した、プリオン蛋白質BSEなど一連の病気の要因であるとする研究の紹介。後半は、一転プルシナーのプリオン蛋白質単独原因説に疑問をはさみ、自説を展開するという本。


大変面白く書けているのだが、それ以上に疑問が多い本。まず、第一に問題なのが本書で使用しているデータの引用文献リストがないこと。福岡の書いていることを検証するのに苦労する。後半では福岡がリセプター仮説を展開するのだが、これは古くからあるウイルス説の発展型。しかし、ウイルス説も明確に引用されていない。一般読者の中にはウイルス説が福岡によるものと考える人もいるのではなかろうか。


本書において福岡がプルシナー説に疑問を呈するなかで重要になっているのが、プルシナーの論文の図を再プロットしたデータだ。ところが困ったことに、プルシナーのグラフと再プロットしたグラフを見比べると、データの数や値が対応していないのだ(p. 156-157)。間違いなのかなんなのか分からないけれど(再プロットはローワーによるようなのだが、オリジナルの論文を見つけらなかった。)、違いには悪意すら感じる部分もある。また、Silveira et al. 2005 Natureの論文に関して、精製度合いを論じている部分がある(p. 214)。福岡は、この論文では精製度合いが90%なので少なくとも10%異物が含まれると論じているのだが、論文には>90%と書いてあって、=90%とは書いていない。タンパク精製において>90%と=90%の意味は良く分かっているはずだから、この点でも悪意を感じてしまうのだ。99%の純度が求められるとも書いているけれど、タンパク精製において>99% purityなどと書いてある論文は見たことがない。


プリオン蛋白質プリオン病の要因の一つであることは間違いない。しかし、プリオン病は未だに謎が多いのは間違いないことで、ウイルスが関与する可能性も完全に否定された訳ではない。最近はsiRNAなどの発見を受けて、小さいRNAが関与しているのではないかと想像する人もいる。そういった状況をもっと客観的に伝えてほしかった。注意深く読めば面白い読み物ではある。