サラ・ミンガルドのスターバト・マーテル

Stabat Mater/Concerti Sacri
以前ヴィヴァルディのスターバトマーテルで聴き比べをしたけれど(こちら)、この時はNaxos Music Libraryに限定していた。しかし、実のところ最も好きな演奏はサラ・ミンガルドが歌った録音なのだ。サラ・ミンガルドの声の美しさというのは、一度耳にすれば忘れられない素晴らしさ。これぞコントラルトと言いたくなる、深く柔らかな色合いの声質。暖かいのだけれど、どこか悲劇性をたたえている。滑らかに歌いつがれる音符と音符。「悲しみの聖母」を歌うのにこれほど適した声はないだろう。


前半の詞章はA、B、C,A、B、Cと同じ曲を繰り返しながら歌わていく。そして、その後に来る、「ああ聖母マリア様、愛の泉よ(Eia Mater, fons amoris)」が、ヴィヴァルディのスターバト・マーテルにおける核だと思う。この録音を聴くとそう思えてくる。サラ・ミンガルドが歌うこの部分は、マリアの悲しみに思いをはせ、イエス磔刑の光景を眼前に写し出す、そういう力を秘めている。宗教曲ではあるが、ヴィヴァルディの場合は劇場性と歌謡性の向こうに、普遍的な人間の感情表現がある。これを余す所なく伝える名演だ。


伴奏はリナルド・アレッサンドリーニ指揮のコンチェルト・イタリアーノ。この人たちの演奏は、いつでも好き、という訳ではないのだけれども、ここでは弦の繊細なそして時に劇的な表現がミンガルドの声を引き立てている。ヴィヴァルディの曲は、透徹した単純の美学で貫かれている。そして、その単純さこそが、曲の美しさを際立たせているのだ。前述の箇所なども、それまで左右に別れて掛け合っていた伴奏が(ヴェネツィアの教会では左右に演奏家が別れて陣取っていた)、ひとつに収斂するのがとても効果的だ。


この演奏でのサラ・ミンガルドはマリアの悲しみに共感し思いやり庇護を願う者であり、また、マリアその人でもあるのだ。